もしもルイの悲願(中編)


翌朝、いつもと何ら変わりのない日が訪れた。
・・・ただ、妙な一点だけを除いて。


コン、コン


キュピル
「・・・・・・・・・。」


ガン、ガン


キュピル
「・・・・・・。」

ガンガンガンガン!


キュピル
「誰だよ!!窓を殴ってる奴は!!」

勢いよくベッドから飛び出し窓を勢いよく開ける。そして思いっきり叱りつけようとした瞬間。
茶色い謎の物体がキュピルを突き飛ばしながら部屋の中へ飛び入ってきた。

キュピル
「いてっ!くそ、なんだこいつは!?」

部屋の隅から愛剣を取り出し抜刀する。そして斬りかかろうとした時その正体に気付いた。

キュピル
「・・・・って・・・。・・・キュー。一体何やってるんだ、お前。」
キュー
「げほっ、げほっ!・・・・お父さん、ちょっとタイム。げほっ、げほっ!」


・・・。


・・・・・・・・・。


キュー
「・・・・・。」
キュピル
「・・・キュー、何でそんな土まみれになっているんだ?」
キュー
「言っても信じないだろうから言わない。」
キュピル
「ってか、態々窓から俺の部屋に入ってきた理由は・・。」
キュー
「玄関の鍵がかかってたから。」

キューがムスッとした表情を見せた後、背中を見せてキュピルの部屋のドアを通ってリビングに行こうとする。

キュピル
「おいおい、また捻くれているのか?」
キュー
「アタシの機嫌を直したかったら今からアタシの言う事全部信じる事。」

キューが振りかえり、土まみれで茶色く汚れた顔をキュピルの服で拭く。

キュピル
「うわ、汚ね!」
キュー
「で、信じるの?信じないの?」
キュピル
「やれやれ、まぁ話だけは聞こうかな。」
キュー
「駄目。話し聞いた後やっぱり信じないって言ったらお父さんの事刺す。」
キュピル
「うわっ、なんて娘だ。」
ファン
「目的のためなら手段を厭わないという点。少しキュピルさん似かもしれませんよ?」
キュピル
「って、ファン何時の間に居たのか。」
ファン
「キュピルさんの部屋から凄い音が聞こえましたから。たった今様子を見に来ました。」

ファンが一度大きなアクビをする。

ファン
「・・・でも話しを聞く前から全面的に信用するというのは中々難しいですね。」
キュー
「おーおー、普通は娘の言う事は全面的に信用するのが父親ってもんだぜ。」

にひひ、と言いながらキュピルに寄りかかる。・・・癖毛も土まみれでかなり汚い。

キュピル
「分った分った。信用してあげるから話してくれ。」
キュー
「おーおー、んじゃ言うぜ。昨日ワセとシアに拉致されて土の中に埋められる所だったんだぜ。
あいつ等アタシを完全に殺す気だったぞー!」

キューが真剣な顔をしてキュピルに訴えかける。
キュピルとファンが顔を見合わせる。

キュピル
「殺す・・気・・っつったって、昨日の夜和解したとか言っていなかったか?」
キュー
「だから、あれはワセとシアに脅されて無理やりそう言わされたんだって!」

キュピルの服を強く握りしめ訴えかける。
キュピルがしばらく考えるそぶりを見せ・・。

キュピル
「・・・・わかったよ、今日一日あの二人に何か怪しいそぶりがないかどうか見張るとするよ。
確かによくよく考えたら俺とルイの血が流れているんだ。順当に考えると相当危険な人物だろう。」
ファン
「・・・?それは何故ですか?」
キュピル
「正直に言うと最近の俺は利益主義者だ。でもってルイは嫉妬深い。この二つが合わさったら凶悪の一言だな。
さて、見張り役はあの二人に任せるか。」
キュー
「あー、お父さん。ワセとシアはアタシに対して強烈な殺意を持っているみたいだからアタシはお父さんの部屋に
隠れてていいかー?」
キュピル
「ん、まぁ今日一日はいいよ。念のためワセとシアに怪しまれないために今日キューは行方不明という扱いにしておこう。
本当にあの二人がキューに対して何か仕出かしたなら騒ぎになるまえに更にもうワンアクション起こすはずだからな。
ファンもこの事は内密に。」
ファン
「勿論、分っていますよ。」
キュピル
「んじゃ、静かにしててな。キュー。」
キュー
「おう、アタシは寝てるぜ。」

そう言うとキューはキュピルのベッドの中にもぐりこみ眠り始めた。
・・・真っ白なスーツが茶色く汚れる。

キュピル
「・・・・・・・・。
・・・話の辻褄を合わせたいからな・・。ワセとシア以外の皆に今回の一件を伝えておくか。」


・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・。


テルミット
「え?ワセさんとシアさんの見張りですか?それは構いませんが・・・何かあったのですか?」
キュピル
「えーっと・・。かくかくしかじか。」

・・・。

・・・・・・・・。

テルミット
「そ、それはまた随分大変な事が起きましたね。キューさんは今キュピルさんの部屋で寝ているっということですね?」
キュピル
「そうだ。ついでにもう一人監視を頼んでいる。」
テルミット
「誰ですか?」
キュピル
「ディバンにだ。もし二人が別行動取った時に備えてやっぱり二人居た方が・・ね。」
テルミット
「全て引き受けますけど・・・肝心のワセさんとシアさんにこの話を聞かれたらまずいですよね?
ここで話しをしていいのですか?例えばほら、ドアのすぐそこにワセさんとシアさんが立っていたら?」
キュピル
「ああ・・そのことについてなんだが・・。不思議な事に全ての部屋を確認したがワセもシアも今このクエストショップに居ないんだ。」
テルミット
「・・・クエストショップに居ない?不思議ですね・・。」
キュピル
「あぁ。始めは俺も半信半疑だったが何だか裏がありそうだ。もしワセとシアを見かけたら監視頼んだ。
俺は一応何も知らないつもりでワセとシアと接する。・・・見かけたらね。」
テルミット
「わかりました。任せてください。」


・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




そして昼頃。何食わぬ顔でワセとシアがクエストショップに戻ってきた。
二人は朝一に過去のナルビクを探検していたと弁明していた。



ルイ
「朝からの探検お疲れ様♪
お腹減ったでしょ?今お昼ごはん作りますよ。」
シア
「ありがとうございます。」
ワセ
「昔の母の手料理の味気になるなぁー。」
キュピル
「(何かルイ。物凄く楽しそうだな。)」

キュピルはキューと出会ってから大分時が経つが未だに自分の子供だという事に実感が持てないで居るが
一方ルイは早くもワセとシアは自分の子供だという実感を持っているようだ。・・・恐るべし。

キュピル
「(こうしてみると本当に母と子供って感じだなぁ。特に髪色が同じだし、シアに至っては小さい頃のミティア・・じゃなくて小さい頃のルイにそっくりだ。)」

・・・・。

部屋の端っこに目をやる。ディバンが地図を広げファンと地理学について話し合っている一方でワセとシアの事を監視している。
一方テルミットは窓から覗き見るという至極怪しい行動を取っていた。

ヘル
「テルミット、お前監視しているとはいえそれはないだろ・・・。」
琶月
「まるで一人ぼっち・・。・・・は、そうですよね。実際一人ぼっちですよね・・。中々出番ありませんから・・。
最近私もリアル日記で自分の欲しい物を検索させられたら友達が出てきたり、実際本当に師匠ぐらいしか友達いなかったり・・。
・・・・ああああああ!!テルミットさん!私とお友達になりましょう!!」
テルミット
「時代錯誤も良い所です・・。」


キュピル
「(外は一体何やっているんだ・・・・。つーか、ばれるから騒ぐな・・。)」

ワセ
「父。」
キュピル
「・・・ん?俺か?」
ワセ
「もちろん。キューと話しをしてみたいんだが・・。」

ディバンとテルミットが顔を上げる。

キュピル
「キューか。・・・そういえば今日キューに一回も合っていないな・・・。」

顎をさすって考えているふりをする。

キュピル
「シアは今日キュー見たか?」
シア
「えっ?」

何か驚いたような表情を見せ、そして視線をやや逸らしながら

シア
「し、知らない・・。」

っと答えた。

キュピル
「(シアは随分と気が弱いな。ますます昔のルイそっくりだ。大人になれば図太い神経になるのか・・これが・・。)」
ルイ
「キュピルさん。今とっても失礼な事考えましたね?」
キュピル
「うわっっ!!!!」

ルイがずいっと顔をキュピルに近づけ脅す。

キュピル
「ご、誤解だ・・。」
ルイ
「キューさんが居ないんでしたら、探してみたらどうですか?もしかしたら何処かに居るかもしれませんよ。」
キュピル
「(・・・!!おい、ちょっとまてルイ!今朝俺の言った事は忘れたのか!?)」
ワセ
「んー、そうだなー。あ!そういえば俺まだこの家とクエストショップ全部見てない。
キュー探しのついでに探検してくるぜ!」
シア
「あ、私も。」

ワセとシアがまっさきにキュピルの部屋に入ろうとしたその時。目にもとまらぬ速さでキュピルが扉の前で通せん坊する。

ワセ
「通せん坊は犯罪らしいぜ、父。」
キュピル
「嘘つけ!?」

ファン
「本当ですよ。別国ですが。」

キュピル
「別国かよ!!」


ワセとシアがキュピルを押しのけて部屋に入ろうとするが、キュピルが滅茶苦茶な弁明しながらそれを阻止しようとする。

シア
「おかーさーん!手伝って!」
ルイ
「しょうがないですね。」
キュピル
「いやいやいやいや!!・・・うごごごごごごごご!なんつー怪力・・・。」


次の瞬間、ルイの鉄拳がキュピルの頭上に落下し、地面の上で悶え苦しみ始めた。

キュピル
「ルイめぇ〜・・・絶対に呪ってやるぞぉ〜・・・。」

ルイ
「呪いでしたら大歓迎ですよ!」
キュピル
「・・・・・・・・。」

シアとワセがキュピルの部屋に入り、数秒後。二人の手によってキューが部屋から引きずり出されていた。

ワセ
「父、キューこんな所にいたぞ。何でだ?」
キュピル
「さぁ、何でだろうな・・・。」

シア
「変なの。」
キュー
「うがー!離せー!!」

キューが憤怒に満ちた顔でシアとワセを睨みつける。
次に困った表情をキュピルに見せる。

キュピル
「(しょうがない、キュー。今は流れに身を任せろ。外に連れて行かれたとしても尾行する。)」
キュー
「(・・・・・)」

キュピルがアイコンタクトと絶妙なジェスチャーでキューに伝える。
どのくらい伝わったか分らないが一応意味は理解したようだ。

シア
「わっ、キューちゃんどうしてそんなに汚れてるの?」
キュー
「お父さんと共に汚れた人生を歩んでいるからだぜ。」
キュピル
「ンな馬鹿な・・・。」

ワセ
「早く汚れを落とした方がいいぞ。風呂入ったら?」
シア
「お母さん、キューちゃんと一緒にお風呂入ってきていい?」
ルイ
「うん、そうしなさい。」
キュピル
「(ルイぇーーー・・・。)」

ディバンとテルミットがサインを送り合っている。
二人が出した結論をキュピルにサインで送る。【風呂の中まで監視は出来ない】というサイン。

キュピル
「(お椀型のポーズに人差し指が二本・・それを×印マーク・・。・・・当然だよな。風呂まで監視したら変態だ。)」

まぁ、風呂の中で何か揉め事をする事はないだろう。
というか、逃げ場がない訳だから大人しくしているしかない。
シアとキューがリビングから通じる小さなお風呂場へと入った。
勿論キューは滅茶苦茶不満そうな顔をしながら・・だが。


・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・。



リビングで本を読んだりテレビを見たりふわふわする白い毛玉を投げてジェスターを遊ばせたりして時間を潰す。

ジェスター
「ふわふわー!」
キュピル
「ほい。」
ジェスター
「あ、向こうにもふわふわ!」

何故かふわふわした物を追い掛けて手に取る習性のあるジェスター。・・・うちのジェスターだけみたいだが。
フワフワした毛玉を三つほど手に取り満足そうな表情を浮かべる。
時計に目をやる。

キュピル
「(二人が風呂に入ってから一時間が経つのか。・・・ちょっと長すぎるな・・。)」

心配になったが覗き見たらキューの怒りの鉄拳が飛んでくる。
ここはルイに任せるべきか。

キュピル
「ルイ、ちょっとシアとキューの様子を見てきてくれないか?」
ルイ
「確かにちょっと長いですね。様子を見てきましょう。」

ルイが洗面台へ行き、そして風呂場へと行く。

・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

10分ほどが経過した。

キュピル
「(・・・・何でルイ戻って来ないんだ・・・)」

まさか一緒に入っているとか?・・・いや、大きさを考えると子供二人が限界だ。そこに大人は・・。
では何故戻って来ない?

琶月
「覗きたい。その一心の欲望を抱えていますね。でも今なら正当な理由をつけて覗けます!」
キュピル
「・・・・お、琶月居たのか。」
琶月
「渾身の皮肉もスルーされた。もーだめだぁーーー!!」
キュピル
「ちょうどいい、琶月。ちょっと風呂場覗いてきてくれないか?ルイに様子を見てくるように言ったのに何故かルイが戻って来ない。」
琶月
「はいはいはい、見てきます見てきます!」
キュピル
「ういういうい。」


・・・。

・・・・・・・・。



琶月が様子を見てからたったの一分で戻ってきた。

琶月
「・・・あのー。」
キュピル
「どうだった?」
琶月
「誰もいませんでしたよ。」

キュピル
「・・・・は?」

キュピルが椅子から立ち上がり風呂場を覗く。しかしそこには確かに誰もいなかった。

キュピル
「・・・な、な、な、なんでだ!?」
琶月
「・・・あ、分った!!」
キュピル
「何か分ったのか!?」
琶月
「さては私の事からかっていたりしていますね?本当は最初からお風呂場に誰も居なかったとか。」
キュピル
「減給。」

琶月
「あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!
給料がお小遣いになるーーーーーーーーー!!!!」


謎はますます深まるばかり。
ワセとシアは一体何を考えているのか?
同じくルイも何を考えているのか?






ワセ
「これでいいんだよな?」

『もちろん・・。・・・全ては貴方達の名の通りになるわ。
そのためにはどうしても。この子には死んで貰わないといけなかった。』



続く


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